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「生きる意味を見つけたい」70代経営者が賃貸事業計画に取り組むきっかけとは?
ある70代の夫婦は、築古となり、生活スタイルにも合わなくなった自宅不動産を持て余していました。手放すには惜しい価値ある不動産をどうやって活用するべきか、頭を痛めています。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

70代夫婦、両親を見送り、息子は独立し…広い自宅を持て余す

今回の相談者は、ともに70代の佐藤さんご夫妻です。ご主人は横浜市内の人気の沿線に自宅不動産を所有していますが、自宅建物が老朽化してしまったため、今後どうするべきか相談に乗ってほしいと、筆者の元と訪れました。

「あの家は、私の父親から相続したものです。自宅建物は築40年を経過しており、これまでもあちこち修繕してきましたが、家そのものがいま生活に合わなくなり、どうしたらいいかと…」

おふたりが感じているいちばんの課題は、夫婦だけの暮らしに対し、家が広すぎるということでした。売却して老人ホームに入るのか、あるいは、建て替えるにしても、自宅のみにするのか、一人息子と二世帯住宅にするのか、賃貸併用にするのか…などなど、いくつもの選択肢があります。

夫婦2人で暮らす豪邸、使う部屋は限定的

いまの自宅は、敷地が75坪、建物が2階建て50坪・5LDKの豪邸です。建築したころは、佐藤さんの両親も健在で、両親の部屋、佐藤さん夫婦の部屋、長男の部屋、書斎、客間もあり、そのほかにリビング、ダイニングがあります。建築当時の生活は、家族も多く、来客の機会も頻繁で、生活に必要な広さだったのですが、両親が亡くなり、子どもが独立してからすでに20年、夫婦2人暮らしが続いています。

長男は都内のマンションを購入して家族で暮らしており、実家に立ち寄ることがあっても宿泊はしません。そのため、家のリビング、ダイニング、寝室、水回り以外は、長年にわたってほとんど使われていません。

社長自ら現場に立つが…60代後半、病に倒れる

佐藤さんは両親から継いだ会社があり、都内以外にも複数の支社を持つなど、それなりの規模で運営をし、自身も現場に出るなどハードに働いてきました。ところが、激務がたたり、60代後半に脳梗塞で倒れてしまいます。入院・手術を余儀なくされましたが、真面目にリハビリに励んだ結果、1年程度でほぼ日常の生活に戻ることができました。

「私もそろそろ、相続についても考えなければと思っています。今後、どうしたらいいのか…」

筆者と、打ち合わせに同席した税理士に、いかにも経営者然とした風貌の佐藤さんは、率直に状況を説明してくれました。

財産を放置すれば、多額の相続税発生もやむなし

佐藤さんの財産は、自宅のほか、所有する貸しビルが1棟、その他金融資産で約3億円程度です。借入はありません。配偶者には税額軽減の特例がありますが、妻にも不動産と金融資産があり、二次相続での相続税が増えてしまうことから、使うメリットはありません。

居住用の小規模宅地等の特例が適用できるのも妻だけであり、小規模宅地等の特例は賃貸しているビルを選択することが得策となります。

駅近の立地を最大限生かす

佐藤さんご夫婦がいちばん気がかりに思っているのは、自宅の老朽化と、家族の人数にそぐわなくなった、多すぎる部屋数です。佐藤さんは体調が戻って来たことから、これからは自宅でのんびり過ごしたいと思うようになりました。

自宅を売却して高級有料老人ホームに入るのも方法ですが、立地がよく、価値の高い自宅を手放したくないと考えています。

その場合の選択肢は、自宅のリフォームか建て替えです。リフォームなら費用は少なくてすむものの、生活するエリアが1階だけになり、2階が活用できなくなるかもしれません。また、空調設備は各部屋にエアコンがあるのみで、廊下や踊り場は温度管理ができない状態です。それでは、冬場のヒートショックが心配です。

このような理由から、佐藤さん夫婦は「建て替え」に気持ちが傾いていました。

生活エリアは、階段のない1階に…

「妻とも相談して、建て替えようという話になり、いくつかのモデルハウスを見学ました。最終的に、全館空調の設備が組み込めるハウスメーカーが候補となったのですが…」

自宅があるエリアでは、敷地の200%の面積が建てられるため、4階建て・5階建ての建築が可能です。ただし、4階以上になればエレベータの設置が必要なため、3階建てが無難という話になりました。

また、佐藤さん夫婦は両親の介護も経験しています。介護が必要になると階段が大変になることから、ご夫婦は1階での生活を希望しています。

自宅建築「3つの選択肢」

容積的には150坪程度が建てられることから、1階が50坪となり、1フロアで現在の2階建ての建物の広さを確保できます。

また、相続税的にはどういう建て方をすれば節税になるのかも検証しました。

①自宅のみ

配偶者なら小規模宅地等の特例が使えますが、子どもはすでに自宅を購入しており、次世代は使えません。二次相続を考えた場合、配偶者に自宅の全部を相続させると次の相続税が増えてしまうため、得策ではありません。また容積率200%のエリアであり、上層階を利用したほうがよいといえます。

②二世帯住宅

すでに自宅を保有していることから、子どもの家は小規模宅地等の特例から除外され、効果が半減するため、得策ではありません。

③賃貸併用住宅

1階を自宅、2~3階を賃貸にできます。もし自宅に小規模宅地の特例が使えなくても、2~3階の貸付用の小規模宅地等の特例が使えます。賃料も2フロア分入り、建築費の借入返済のめどがつくことから、大きな不安はないといえます。仮に、子どもが1フロアを使用貸借として住む場合、1フロア分の自宅の特例と、貸付用の特例が使えることになります。ただし、受け取る家賃が1フロア分になる場合は、返済原資が少なくなるため、子どもからも家賃を受け取るなどの補填が必要でしょう。

このように比較してみると、1階を自宅とし、2~3階を賃貸するのが、賃貸事業として安定すると判断できました。建築費の借入を差し引くと、相続税は現在より大きく減額できます。

ハウスメーカーの費用見積「2億円」をどう考えるか?

賃貸併用の住宅を建設し、1階が自宅、2~3階を賃貸する方法がいちばんよいという結論になったことで、佐藤さんご夫婦もその方向で検討することになりました。しかし、次の課題は事業収支です。

佐藤さんご夫婦が、全館空調の設備が組み込めることから希望した1社は、見積の結果、事業費が約2億円になります。

年間の借入返済は700万円で、2~3階の賃料は坪単価12,000円。100坪を賃貸しますので、年間1200万円の賃料が入ります。管理費や固定資産税の負担などを考慮すると、手取りは1,000万円程度となり、700万円の借入返済をしても、まだ300万円以上は手元に残るという計算です。しかし、将来的な賃料の減額や、維持のための出費を考えると、もう少し収支バランスを検討したいという話になり、さらに検証を進めることになりました。

「もちろん、われわれ世代が亡くなったあとの相続も心配なのですが、実際のところ、あとどれだけ生きるかわかりません。大事なひとり息子には、親として迷惑をかけたくないですし、なにより、少しでも多く財産を残してやりたい。メリットになる方法があれば…」

賃貸事業は30年以上の長丁場となるビジネスです。そのため、スタートの事業費の検証は非常に重要となるのです。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

(※写真はイメージです/PIXTA)

(出典 news.nicovideo.jp)

「家族や周囲の人々の支えがあったからこそ、脳梗塞を乗り越えることができました。今後は家族や地域社会に貢献するため、賃貸事業を通じて地域の発展につなげたいと考えています。」
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