受注停止などにより希少性が高まっているランクル300。2000万円に迫る衝撃価格の中古車も。ちなみに新車価格は510万~800万円
クルマの盗難事件が相次いでいるニッポン! 今年4月に三原じゅん子議員の愛車・ランドクルーザーが自宅から盗まれたのは記憶に新しいところ。クルマ泥棒の手口とは? 愛車をガードする有効な対策は? 専門家に話を聞いた。
■自動車盗難件数は2年連続で増加
わずか数分で愛車が消える。
今年3月に日本損害保険協会が発表した「第25回自動車盗難事故実態調査」の結果によると、トヨタの高級SUV、ランドクルーザーが3年連続で車名別盗難ワースト1に。なぜ狙われ続けている?
「もともと人気のクルマですが、受注停止などの影響でランクルのタマ数は極端に少なく、お宝状態となっている。中古価格は新車の2倍以上で、先代ランクル200の価格も爆上がり。この価格高騰に拍車をかけているのが歴史的円安です。
実は海外からの引き合いが増え、どこも値札は超強気。ランクルは金脈化しており、当然、盗難車を輸出する犯罪組織にはロックオンされている」(中古車関係者)
*ランキングは日本損害保険協会が発表した「第25回自動車盗難事故実態調査」の資料を基に編集部が作成
この話を裏づけるように先月、自民党の三原じゅん子参院議員の自宅から愛車ランクル200が盗まれて大きなニュースとなった。また、今月10日には警視庁がトヨタの高級ミニバン、アルファードを盗んだ疑いで職業不詳の男を逮捕したと発表。余罪は約70台にも及び、被害総額は3億円超。
日本市場のガラパゴスカーと呼ばれてきたミニバンだが、現在、アルファードは世界が欲しがるクルマに。価格は540万~872万円
だが、狙われるのはトヨタの高級車ばかりではないようだ。警察庁の発表によると、スズキのキャリィ、ダイハツのハイゼットが盗難台数の上位にランクイン。
今まで盗まれるという認識がなかった軽トラも狙われていることが明らかになった。まさに明日はわが身。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏もこう言う。
「警察庁の自動車盗難認知件数のピークは2003年の6万4223件。昨年は5762件ですから自動車盗難の件数は、ピーク時と比較すると10分の1ほどに減っています。しかし、逆に言えば今も全国で年間5000件以上の盗難被害が続いている」
その半数以上は検挙に至っておらず、クルマはほぼ見つからないのが実情だという。
「しかも、昨年の自動車盗難件数は前年比0.5%増で、2年連続の増加となっている。そして40%近くのクルマが住宅で盗まれている。ちなみに昨年の自動車盗難の都道府県別の最多は千葉県で、続いて愛知県、埼玉県、茨城県、神奈川県という順です」
近年、海外から熱視線を集めている軽トラ。ダイハツ自慢の逸品はハイゼットトラック。価格は90万2000~113万3000円
水面下では各地域の盗難車リストが出回り売買されているという。クルマ泥棒は複数犯で、牽引車を用意していたり、リレーアタックやCANインベーダーなど特殊な機器を使って解錠するなど、巧みな手口を使い盗みを働く。
「盗んだクルマはそのまま窃盗犯の組織が持つヤードと呼ばれる非正規の解体工場に運び込み、バラバラの部品にして海外へと送る。クルマを部品化する理由は、車両を丸ごと送ると税金がかかるが、部品にして送ると安く済むから。
そのため数回に分けて送る。あらかじめ部品には番号がつけてあるので、現地で簡単に組み立てられます」
■泥棒が守る三原則とは?
ほれ抜いて購入した愛車が盗まれ、バラバラにされ、海外に売り飛ばされるのは最悪だ。クルマ泥棒から愛車を守るすべはないものか。
実は今回の取材で専門家の多くが防犯対策に挙げたのは車用カバー。車種を特定させないことで、クルマ泥棒のターゲットとなる確率を減らせるという。だが、前出の小川氏は首を横に振る。
「確かに車用カバーに一定の効果は認めますが、車用カバーというのは放火魔を刺激する可能性も......。小手先の対策を探るよりも、まず泥棒の習性を知り、それを逆手に取って対策を講じるべきです」
泥棒の習性とは何か?
「泥棒は"気づかれない、見つからない、捕まらない"という三原則の下に動く。この三原則を度外視して行動することはまずない。つまり、泥棒は警察に通報され、逮捕されるリスクを何より恐れて生きている。
ですから、三原則が崩れる仕掛けに気づいたら、『この家のクルマを盗むのはやめておこう』と考える。重要なのは泥棒にリスクを感じさせること。それが最大の防犯対策になります」
気になるのは"泥棒が嫌がる仕掛け"の中身だ。
「泥棒が嫌がるのは"目"と"光"と"音"です。目というのは防犯カメラやドラレコなど。光は防犯センサーライトです。自動車盗難の5割以上は22時~翌9時の時間に発生している。つまり、泥棒は自分の顔がバレにくい薄暗い時間を好む。
防犯センサーライトの光に照らされると防犯カメラに自分の姿が写ってしまったり、近隣住民に目撃されるリスクが高まる。
音は、防犯ベルや防犯砂利などです。音により自分の存在が周囲に知れると悪事が働けない。これらの備えがそろっていると、泥棒は『防犯意識が高い家だ』と判断して侵入を避ける傾向にあります」
この目、光、音の防犯対策をした上で、ハンドルロックやタイヤロックをすべきだと小川氏は語る。一方、外出先でもクルマから離れる場合は細心の注意が必要だという。
「夏場は車内を冷えた状態に保ちたいがために、エンジンをかけたままコンビニやスーパーへ行く人がいますが、これは絶対にダメ。クルマ泥棒の餌食になる可能性が高まります。
今、日本はクルマが簡単に盗める国だと世界中の犯罪者からナメられている。気を抜くと、わずか数分で愛車は消えてしまいます。日頃から防犯意識を高め、防犯対策もしっかり行なってほしい」
■クルマ泥棒に効く心理的な防犯術
犯罪心理学者で東京未来大学副学長の出口保行教授は、"攻める防犯"を提唱する。これまでは犯罪者からの攻撃に対してどう防御するかという、いわば守りの防犯が主流だった。ところが、出口教授が掲げるのは「犯罪者に嫌がらせをする」という攻める防犯。キーワードは"割れ窓理論"だという。
「割れ窓理論とは、窓ガラスが割られてもそのまま放置しているような場所は、犯罪者にとって『この街は住民の関心が浅い所だ』と判断し、『ここで犯罪を行なってもたぶん見つからないだろう』と考えて、犯行しやすい場所となってしまう。
私たちの日常生活に置き換えると、街の環境美化に努めている所は、犯罪者にとって居心地が悪く、犯罪を起こそうとは思わないが、汚いまま(ゴミがあふれていたり、捨て看板が放置してあったり)の所は犯罪を起こしやすい場所となる」
愛車を守るために具体的に何をすればいいのか?
「割れ窓理論からクルマの防犯を考えたとき、駐車場をキレイに整えておく。モノが整然と並べられていることはとても重要であるし、常にクルマをキレイな状態で維持することもとても重要になる。
また、家の周囲も常に整えておくといい。要するに『ここで犯罪を企図したらすぐにわかるよ』というサインを外部に出しておくことが重要です」