4月中旬、埼玉・熊谷市に業界最大となる無人の同人書店「夕張書店 籠原店(ゆうばりしょてん・かごはらてん)」がオープンした。運営元は同人誌ショップの雄・メロンブックスだ。
本離れが叫ばれ各地で大型書店の閉店が続く昨今、どんな狙いで開店に踏み切ったのか。そこには同社の熱い思いがあった。
■無人店舗ならではの入店方法
埼玉県北部の都市・熊谷市。通称“薄い本”こと同人誌をメインで扱う夕張書店は、JR高崎線「籠原駅」から徒歩15分の場所にある。外装は、東京・秋葉原をはじめ各地に展開するメロンブックス(以下、メロブ)と同じくグリーンの装飾だ。
先に説明しておくと、決して北海道・夕張市に本拠があるわけではなく、メロブの新業態であることをアピールするため高級ブランドメロン「夕張メロン」の“夕張”を店名に採用している。…かわいい。
同人誌、書籍、ソフトの搬入・陳列時こそスタッフが出入りするが、普段は完全無人店舗。入店方法はじつにユニークで、コミュニケーションアプリ「LINE」で店舗アカウントを友達登録すると出てくるQRコードをかざし、自動ドアを開ける。
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■とにかく広い…!
店内に入るとかなり広大。数多くの同人誌が目に飛び込んでくる。このワクワク感こそ書店に来た時の醍醐味だ。いまやネットで電子書籍を購入することがスタンダードになりつつあるが、やはり両目に数百、数千タイトルが一挙に飛び込む興奮は、書店へ来た時しか味わえない。
クリエイターの自作本である「同人誌」は数週間前に大型同人誌即売会で頒布された新刊から、昨年のコミックマーケットで頒布された作品まで、新作を中心に新旧様々な本が並ぶ。さすがメロブ。
同人誌のほか、音楽などの同人ソフト、キーホルダーなどの同人グッズ、そして一部棚には大手出版社の新刊コミック。まるで秋葉原カルチャーがそのまま熊谷市に移動してきた感覚だ。
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■特設コーナーやフードコーナーも
約250平米の店舗内に並べられた商品数は約10,000点。中にはクリエイターをプッシュする特設棚もあり、棚を2段分占拠していたクリエイター・町田メガネ氏の同人誌は、イラストを使いながらオタク文化をアカデミックに分析しているクールでナウな一冊だった。
メロブ各店同様、夕張書店スタッフの判断で特設棚のラインナップを決めており、いわば同人誌マニアである販売員たちが「この本、面白いから絶対読めよ!」という本だけがピックアップされているわけである。
他にも、生搾りオレンジジュースのマシン(ここはメロンであって欲しかった…)、カレーや豚まんのフード自販機、ガチャ自販機を設置した休憩スペース、さらにはディスカウントコーナーもあり、数時間滞在しても飽きない仕組み。
店内を見渡すと、遠方から仲間と訪れたバイク乗りグループのほか、地元民なのかママチャリで買い物に来る男性も。オープンから約2ヶ月、同人ファンにとっては一つの“オアシス”になっているようだ。
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■メロブの責任者を直撃!
夕張書店が出店に至るまでの経緯を、メロブの担当部署である同人課に聞いた。
「じつは昨年11月にオープンしたメロンブックス沖縄店、そしてメロンブックス高崎店が、20時以降セルフレジによる無人営業を行っており、成果を挙げたのです。夕張書店でも、夕方から夜間にかけての売上が想定より良く、これまでお仕事の関係などで立ち寄れなかったお客様に大変ご好評をいただいています」(メロブ同人課)。
24時間営業はファンにとっても嬉しいところ。一方で無人ならではのデメリットはないのか。
「購入特典で梱包可能な物はほとんど商品に同梱しているので、有人店舗と同等の特典やサービスが受けられます。ですが、大型フェア開催時に行うポイント交換景品など、一部の特殊なケースのみどうしても対応が難しい場合があります。
それは無人店ならではの弱みですが、現在行っている同人誌を税込180円でご購入いただける『らしんばん出張所アウトレット』など、別企画を定期的に計画し盛り上げていく予定です」(メロブ同人課)。
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■既存店と変わらぬクオリティ目指して
記者も実際にスマホを使って入店、セルフレジでの会計を試したがスムーズに買い物ができた。本探しに没頭し、営業時間を気にせずショッピングできたことは、じつに楽しい体験だった。
「出版社のコミック、さらには同人作家さんたちが手掛ける同人誌ともに、メロンブックス各店に並ぶ商品と遜色ないラインナップでニーズにお応えしています。無人とはいえ入荷に時差が生じることもほぼありません。今回はご縁があって埼玉・籠原に出店しましたが、もっと同人誌の楽しい世界を広めるため今後もチャレンジを続けたいと考えています」(メロブ同人課)。
■気になる防犯対策は…?
ちなみに書店のトラブルといえば、やはり万引きの被害が挙げられる。
無粋な質問だが、その防犯対策について直撃すると「…とんでもない量の監視カメラを店内に設置しています。フロアで上を見るとわかるのですが、小型ドローンがたくさん飛んでいる感じに近いです。ちなみにダミーカメラは一つもありません。みんなルールは…守・れ・よ。…ふふふ」という、ハートフルでストロングな回答。
X上では、同店で買い物したユーザーから「オタクの為の令和版ドライブイン」「店内広いし、新刊の棚も大きくて見やすい」「すげーゆっくりと宝探しできた」「地元にショップが有るのはマジで有り難い」と好評の声が相次いでいる。
一方で、「もっと増えてくれたらいいんですけどねぇ!」「イベントカタログも扱っていただけると有り難いです」とさらなる要望の声も。メロブの新たな挑戦が、今後同人誌の魅力を一段と広げてくれそうだ。
■夕張書店 by Melonbooks 籠原店
年中無休、24時間営業
<このニュースへのネットの反応>
腐らないし電灯以外の電気代がかからないのが強いね。でも利益率が低いから冷凍食品の数倍万引被害がデカい